Work Text:
親父が弟を殴るのは仕方のないことだった。ジョーダンはいつもトラブルを引き起こす。俺たちに迷惑をかけるかもしれないとは微塵も考えない。息をするかのように自分から面倒事を呼び寄せる奴だ。
「またジョーダンがやらかしたのかよ」
「お前の弟、相変わらずだな」
友人たちがそう言って嘲笑うかのような目で俺を見ることも少なくなかった。ジョーダンはいつだってみんなの注目を集める。
親父が学校に呼び出しを喰らったのは一度や二度ではすまない。そんなとき親父は家に着くなりジョーダンに拳を振り下ろしていた。ジョーダンがやらかしたことが発覚したり、親父に余計なことを言ったりしたときにも。親父がそうすることはジョーダンも理解していたし、覚悟もしていたと思う。大抵は一、二発。それが親父の躾であり、弟への罰だった。こんなことは男家族ならあって当然だ。俺とジョーダンだって殴り合いの喧嘩をする。なんてことはない。
それでも俺の家族はギクシャクしていた。理由は分からない。ただ、俺はこの家族を機能させたかった。母さんがいなくても俺たちはやっていけると証明したかった。父親は子どもを慮り、子どもは親を慕う。うちはそんな"普通の"家族なのだと思いたかった。そのためには問題を起こさずに穏便に生きなくてはならない。カンディスと赤ん坊の件に始まり、厄介事に足を突っ込むばかりで家庭の平穏を保つことに協力的でないジョーダンはあまりに身勝手に感じられた。彼が殴られることは言わば自業自得だった。親父は面倒ばかり起こすジョーダンに苛ついていただろうし、彼の減らず口を抑えるためには拳で語るのが最も手っ取り早い方法だった。何も問題はないはずだ。親父がジョーダンを殴るのは仕方のないことだった。
この価値観に綻びができたのはジョーダンが蹴られた日だった。床に這いつくばり、咳き込むほどに打ちのめされた弟の姿はいつまでたっても頭から離れてくれない。あのとき俺はただ見ていただだけで何もしなかった。そのことで罪悪感と自己嫌悪に苛まれた。もしかしたら親父が弟に手を上げるのはおかしいことなのかもしれない。そんな考えが芽生えた。少なくともあそこまでやったのは異常な事態だった。先生たちは親父のことを知って俺たち兄弟に親身になってくれている。あれは許されないことだったと。だが俺は"普通の"家族を諦めきれなかった。たしかに親父は弟を殴ったり蹴ったりした。でもそんなこともあるかもしれないじゃないか。子どもには親が必要だし、親だって子どもが必要なはずだ。それは間違いない。ジョーダンが蹴られたことは最悪だったが、それはあの一回限りの出来事であって日常ではない。普段殴られる原因を作っているのはジョーダンの方なのだ。となると、ジョーダンが殴られるのは全くもって仕方のないことだった。
